秘説 陰陽道

詳細

• タイトル: 秘説 陰陽道 de 藤巻一保
• ISBN: 4864033242
• ファイル名: 秘説-陰陽道.pdf
• 発売日: 2019/5/22
• ページ数: 302ページ ページ
• 出版社: 藤巻一保

陰陽師というと、どうしても安倍晴明の“超人的”なイメージに惑わされてしまうかもしれないが、実は彼等は日々“地味な”実務を行って来た役人に過ぎない。そこで、フィクションは総て廃し、ひたすら実直に陰陽師に向き合ったのが本書である。だが、どうか「夢が無い」とは思わないで欲しい…何故なら、創作物語なくしても尚、陰陽師の存在は魅力的なのであり、本書はその世界の全てを見せてくれるからである。第一章「天と陰陽道」天文、占星術、暦に関する業務について解説。当時、天の異変は国の運命を左右する機密事項でもあったので、天体を観察し、占う事は国家レヴェルの重要な責務であった。尚、重要性と言う意味では暦も同様であり、特に当時の貴族達は具注暦（ただのカレンダーとは違って、方位の吉凶や禁忌も記載）に頼って生きていたと言っても過言ではない為、具注暦の作成も重大な仕事として陰陽寮に一任されていたのだ。即ち、陰陽寮の業務は国家の仕事から貴族の暮らしに至る迄、深く根差していたのである。第二章「地と陰陽道」遷都から個人の引っ越しに至る迄、所謂“土地の移動”に際する占いと儀式に言及。本書では当時の儀式や禁忌を詳述している上に、移動に際して祀る神々（門の神から厠の神に至る迄）を列挙しているので、改めて“土地を移る”事の重さを学ぶ事が出来ると同時に、その痕跡が現代の地鎮祭に微かに垣間見られる事を実感する事が出来るであろう。尚、当時の土地に対する概念の中でも取り分け重要であった筈の四神（玄武・青龍・白虎・朱雀）に陰陽師達は余り関心がなかったらしいという指摘は意外でもあった。第三章「呪術と陰陽道」呪いや祟り、物の怪や病等、あらゆる災難に関わる業務を紹介。当時は誰かを呪詛する事自体が重罪であり、それを見極めるのも陰陽師の役割であった事を思うと、陰陽師が「刑事」のような任務も担っていたとも言え、中々面白い。更には、一概に「祟り」と言っても、例えば神の祟りの場合には仏事は御法度である一方で、物の怪や鬼が相手なら密教が有効である…即ち、誤った対処をしてしまうと命取りになりかねない事から、陰陽師は「祟りの原因」追究の場面でも活躍したのだ。「呪い」と言えば陰陽師…といった所か。第四章「陰陽道の歴史」陰陽道の伝来と発展、陰陽寮の誕生から近世の陰陽師に至る迄を詳述。陰陽道の両雄・安倍家と賀茂家を詳しく取り上げると共に、陰陽道宗家が天文博士・暦博士の職も独占するようになった経緯にも触れているので、成程、如何なる世界に於いても権力争いがあった事を知るだけでも現実味がある。因みに、戦国時代に廃れてしまった陰陽家が江戸時代に復活するまでの歴史も説いているので、正しく陰陽道の隆盛の歴史を理解する事が出来るであろう。歴史的史料を駆使しながら解説している所は実証性が伴っているし、コラムも充実、更には豊富な図版を掲載した丁寧な編集が実に嬉しい。そして、何よりも印象に残ったのは、著者の「陰陽道について正しい知識を身に付けて欲しい」という願いが表れている所であろうか…専門的な内容を含むにも拘らず、著者が手取り足取り導いてくれるような内容なので、前知識の有無に係わらず誰でも陰陽道について理解を深める事が出来るのだ。陰陽道に関心のある方にとっては必読の一冊と言えよう。